毒で苦い恋に、甘いフリをした。
カプッて首筋にくちびるで触れるゆうれいから顔を逸らして抵抗を試みる。
ゆうれいは止まってくれなくて、おでこ、鼻の頭、くちびるの端っこ、顎と順番にキスをしていく。

さわさわと指先だけで触れてくるのがくすぐったくて身をよじってしまう。

「ね、やめてよ…お母さんが居るのに…!」

「居なかったらいいの?」

「そういうことじゃなくて!」

「もうさ、ゆめの本音分かっちゃったから誤魔化さなくていいよ」

「本音って…」

「俺とこーゆうことしてるときは風のこと忘れられるでしょ?俺に無理矢理されてるって被害者の顔してさ、俺の好きにされちゃってればいいよ」

「そんな言い方…!被害者ぶってなんかない、もう…分かってる。私は自分で…」

「こうなることを望んでんの?」

「最低になればかっちゃんを好きでいる資格もなくなるから」

「心まで簡単に変えられんの?」

「こうでもしなきゃ私はいつまでもかっちゃんに執着して、目の前で名前呼ばれたり笑われたりしたらまたバカみたいに好きって思っちゃうんだよ!」

「ふーん?じゃあちゃんと言って?自分のために俺を利用しますって」

「利用…」

「そうでしょ?俺のことは好きにはならないけど自分の恋を忘れたいから俺に抱かれて頭カラッポにすんでしょ?俺はいいよ、それでも。ゆめが選んでくれるのならなんでも」

「ゃ…ムリ、やっぱムリ、やめよ…やっぱやめよう、ね?そんなことしちゃダメだって…」

「ばーか。散々煽っといて今更なに言ってんの。やっぱムリって、俺がもうムリなんだけど?」

どこまで堕ちたらかっちゃんを心ごと忘れることができるんだろう。

ただ恋を忘れたいだけだったら、こんな風に親友を利用したり最低になる必要なんてない。

それなのになんでそれでも私はまだ…こんなときでさえかっちゃんの優しい顔や声を思い出しちゃうんだろう。
かっちゃんの心に私の居場所は無いのに。
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