毒で苦い恋に、甘いフリをした。
花火大会の会場は港前の広場。

出店もいくつかあって、ここに来るまでに何人もの浴衣姿の男女とすれ違った。

広場前の、港に着く船を待ち侘びていた少女だか何かをモチーフにした石像の前でみんなと待ち合わせをしていた。

ちょっと離れたところから、すでにみんなが揃っていることが分かって、私とニカは小走りになった。

下駄がアスファルトを鳴らすカラン、って音が心地よい。

「ごめんねー!お待たせ!」

「走るなよ、危ないだろ」

真っ先にそう言ってくれたのは黒崎くんだった。
もうすでにニカしか見えていないって感じで、視界は完全にロックオン!

ニヤニヤと二人を眺めていたら、浴衣の袖をツン、とゆうれいに引かれた。

「ん?」

「浴衣、初めてじゃない?着るの」

「ゆうれいの前では初めてかも!どう?」

「どうって…」

口元に手を当ててちょっとそっぽを向いたゆうれいに首を傾げて見せた。

ゆうれいは聞こえるか聞こえないかの声で、
「似合ってるに決まってんじゃん」って言った。

「あはははは!なーに照れてんの!」

男性陣はみんな甚平だった。
三人で示し合わせたのか、みんな同じ濃紺の物で、いつもと雰囲気が違って、確かにちょっとドキドキする。

かっちゃんの隣に並んで一緒に花火を見られたら素敵だなって今でも思う。
だけどその権利はこころちゃんの物だ。

待ち合わせ場所に着いてから、なるべくかっちゃん達のほうを見ないようにしていたけれど、
男性陣の甚平姿を眺めながら、順番にゆっくりとかっちゃんを見た。

目に飛び込んできたのは、かっちゃんよりもこころちゃんの、天使みたいな浴衣姿だった。

「あ…」
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