毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「茅野さん…!」

私の視線に気がついたこころちゃんが下駄を鳴らしながら私のそばまで来た。

「お揃いだねっ」

「うん…そうだね、すっごい偶然!びっくりしちゃった」

「ほんとほんと。でもうれしいなー」

こころちゃんの浴衣、私とまったく同じ。
白地に赤い椿の花模様。

透けそうなくらい肌が白くて、いつものハーフアップとは違う、浴衣に合わせてアップしたヘアスタイルが本当にきれい。

あーあ…。
こんなの、ますますかっちゃんは私に見向きもしないよ…。

制服でさえ、言ってしまえば“お揃い”で、
特別なシチュエーションで特別な格好をしたって、こころちゃんとは違う個性を見せられないのならもうダメだ。

「二人とも浴衣一緒なんだ…凄いね」

ニカが気を遣うように私を見た。

「うん、うれしいな。親友みたいで」

ニコッて可愛く微笑んだこころちゃんを見て、
ゆうれいが「あー、ニカちゃんが嫉妬しちゃうよー」ってからかった。

「結芽、足大丈夫か?」

「え…」

唐突にかっちゃんにそう言われてきょとんとしてしまった。

かっちゃんがクスって笑って言った。

「サンダルとか下駄とか、その指の間で挟むやつ、いつも痛がるじゃん。無理すんなよ?」

「あ…ぇ…そうだね。うん、大丈夫!ありがとう」

ドキドキ、ドキドキって心臓の音が周りに聞こえてしまわないか心配になる。

そんなこと覚えててくれてたんだ。
かっちゃんから声をかけてくれた。

うれしかった。
脳内をかっちゃんでいっぱいにされてしまった。
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