毒で苦い恋に、甘いフリをした。
自動で流されていってるみたいな人達の流れをぼーっと見ていた。

こんなに大勢の人が一ヶ所に集まっているのに、
自分だけが世界から切り離されてしまったみたいに思えた。

この人達と同じ方向に流されていけば私にだって待っていてくれる人達がいることは分かっているのに卑屈になってるんだって自覚していた。

かっちゃんとこころちゃんは幸せで、ニカもきっとすぐに幸せになれる。

私の居場所だけがない。

じゃあ、ゆうれいは?

ゆうれいはきっと私を待ってくれているのに、
このままそっと離れてしまえば、ゆうれいとのことも全部無かったことにできて、
最低なんかじゃない、普通の女子高生に戻れるって思った。

「ゆめっ…!」

流されていく人混みをかき分けて、逆走してきたひと。

私の前で上半身を曲げて、膝に手をついて肩で息をついている。

「なにやってんの…」

「かっちゃん…?」

「なに、どうした?具合悪いん?」

「かっちゃん…なんで…?」

「なんでって何が…」

「一人?」

「は?え、そうだけど。マジでなんかあった?大丈夫か?」

「………これ」

千切れていないほうの鼻緒を指にぶら下げたままだった。

だらん、って役目を失ってしまった下駄が、私とかっちゃんの間で揺れた。
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