毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「あー…切れちゃって歩けなかった?そっか…ごめん。気づかなくて」

「ううん…」

「よかった。怪我してるとかじゃなくて」

「なんでかっちゃんが気づいてくれたの」

「振り返ったら結芽が居なくて…人も多かったしやっぱり足、痛くて無理してたんかなって思ったけどあまりにも近くに居ないからビビったんだよ」

「そんな…小学生じゃないんだから」

「いきなり消えてたらびっくりするだろ!電話してくれたらよかったのに」

「スマホ…忘れてきちゃって…」

「ほんとドジだな。足、痛い?」

「ううん。あの…」

「ん?」

「こころちゃんは大丈夫?…来てくれてありがとう」

私の前にしゃがんだまま、
かっちゃんの手のひらが伸びてきた。

頭を撫でてくれる優しい温度。

「結芽が大丈夫じゃない時はいつも気づくから。安心しろ」

「…これからも?」

「当たり前だろ」

「こころちゃんがいるのに?」

「なんだそれ」

「こころちゃん、かっちゃんのこと大好きでしょ?」

周りが暗くても、かっちゃんの照れた表情はすぐに分かる。

私のことでは絶対にこんな表情はしない。

あー、そうか。
こころちゃんのことならこんなに簡単に照れちゃうんだ。

「こころちゃん、きっと嫉妬するんじゃないかな」

「そんなの…結芽とこころは違うだろ?」

「えー、どういう意味?」

「違うだろ。こころへの気持ちと結芽を大切に想う気持ちは」

「………なにそれ。女の子は嫉妬するんだよ?やっぱり自分よりそっちのほうがいいのかなとかさ。不安になったりするんだよ。本当に大事なほうを守らなきゃ…ずるいよ…」

「………全部大事で全部守りたいってずるいの?」

「ずるい、よ…なんにも失くさないまま独り占めなんてさ」

「じゃあ俺は何を選べば正解なの?結芽的にはさ」

「そんなの私はっ…!」

「結芽?」

「なんでもない…」
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