毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「あんま難しいこと言い合うのやめよ。こころが嫉妬するって言うんなら、どういう意味で結芽達が大切かちゃんと話して理解してもらうからさ。結芽も、お気に入りのオモチャ取られたみたいな拗ね方すんなよー」

困ったみたいに笑って、かっちゃんが立ち上がった。

浴衣と合わせて買った巾着の中でスマホのバイブレーションが鳴った。
かっちゃんは気づかなかった。

チャンスさえあればかっちゃんと二人っきりになれるかもしれないのに、なんて思っていた私はなんてバカだったんだろう。

かっちゃんは私を見つけてくれた。
大好きな優しい目で微笑んで頭を撫でてくれた。

私がかっちゃんの親友だから。
それ以上でも以下でもない。

かっちゃんと二人っきりになって、こころちゃんが大好きだって改めて思い知らされただけだった。

「かっちゃん、この前言ったこと覚えてる?」

「んー?なんだっけ?」

「私がもしかっちゃんを好きだったらって話」

「あー。俺を好きなのにこころとのこと応援したり、結芽はそんなに器用じゃないだろ」

クスクス笑うかっちゃんの楽しそうな顔。

どれだけ恋を伝える言葉を、心臓が飛び出そうなくらいドキドキしながら紡いだって、かっちゃんは私にドキドキしたりしない。

「かっちゃん」

「どした?」

「ほんとなんだよ。かっちゃんのこと好き…」

私を見つめながら、港に背を向けていたかっちゃんの後ろからドンッ…って盛大な音が鳴り響いた。

港に集まっている大勢の人達から歓声が上がる。

「わ…始まっちゃったな!…ごめん結芽、なんて言った?」
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