毒で苦い恋に、甘いフリをした。
「先に行ってて?」

「え?」

「広場のほうに水道あったよね?足、洗ってから行くから」

「一緒に行くよ」

「今度はちゃんと行くから。早くしないとこころちゃんと花火、見れないよ。私のせいで見れなかったーって言われても困るしねっ!」

へへ、って笑った私に、「ちゃんと来いよ」って、
かっちゃんはまた保護者の顔をして笑った。

遠ざかっていくかっちゃんの背中に、好きだよって呟いてみた。

聞こえるはずない。

バイバイって呟いてみた。

さっきよりは聞こえてしまう気がした。

スマホの通知の正体は、思っていた通りゆうれいだった。

私が居なくなってすごく焦ってる。
かっちゃんと合流できたか!?って何通ものメッセージ。

かっちゃんについた嘘にも、かっちゃんは気づいていない。
さっき散々ニカの写真を撮ったし、スマホを持っていないわけがない。

連絡しろって言われても、
私は誰を選べばいいのか分からなかった。

一番に来て欲しかったのは、やっぱりかっちゃんで、
でもその選択肢で傷つけるのは一人だけじゃない。

好きになってもらえて、彼女になれたこころちゃんは正義で、

一方的に片想いして離れられない私は悪だった。
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