毒で苦い恋に、甘いフリをした。
ゆうれいにメッセージを送った。

「鼻緒切れちゃった」

「風は!?」

「そっち戻ったよ」

「ゆめはどこいんの!?」

「広場のほう行く。足、洗いたい」

立ち上がって、裸足のままの左足をそっとアスファルトにつけた。

ぬるい。

ボコボコとした感触。

人目なんかどうでもよかった。

右足は下駄の音を鳴らして、
左足は裸足のまま、人の流れに逆らって広場まで歩いた。

花火大会の会場からちょっと逸れただけなのにやけに暗く感じた。

カラフルな花火が空に打ち上げられて、
そのたびに歓声が聞こえる。

「ゆめっ…!」

「ゆうれい」

「怪我してんのか!?」

「してないよ。裸足だから洗いたかっただけ」

「なんで一人になるんだよ!危ないだろ!」

「だって私のせいで花火見れなかったって恨まれたらたまんないし」

「そーじゃなくてっ…違くて…あー…ごめん。情けな…」

「ゆうれい?」

「ゆめがはぐれちゃったこと気づかなくてごめん。風が振り向くまで気づけなかった…」

「私が急にしゃがんだりしたし、すぐにそっちに行けばよかっただけだから。ごめんね?」

「こんな時でさえ風に嫉妬した。あーあ。こんなとき一番に守れないならダメだな」

「大袈裟。かっちゃんは前からじゃん。そういうことに敏感なの」

「俺が一番だったら今度こそ好きになってくれてた?…って、こんなこと言ってんのがダサいよねー」

「ほんと、ダサい」

「お前なー」
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