双子パパは今日も最愛の手を緩めない~再会したパイロットに全力で甘やかされています~
ロッカーで着替えを済ませ腕時計を見た。
予定より三十分早い出勤だ。
出発前の一時間半前に出社する規定になっているが、気象庁の天気図を見て停滞している前線が気になった。コーヒーでも飲みながらパイロットレポートを見ようと思い早めに来たのである。
運行管理部へ行き、まっすぐコーヒーサーバーに向かう。
「神城さん、おはようございます」
ブレンドのボタンを押そうとした手を止めて振り返ると、新人のCAがいた。
「今日はよろしくお願いします」
「おはようございます田(た)中(なか)田中さん。よろしくお願いします」
「名前、覚えてくださったんですね」
前回同じチームだったが、彼女はCA間でのブリーフィングに遅刻していた。先輩CAに怒られ号泣し、泣くなとまた怒られていた新人だ。フロアに響いた『すみません!』という泣き声は忘れようがない。
だが、そうとは言えないので無難に返す。
「一度でも同じチームになったメンバーは忘れません」
「あ、そ、そうでしたか。あの、コーヒーお入れしましょうか?」
期待に満ちた目をする彼女を「いえ、結構」と軽くいなし、「そうですか」という細い声に背中を向けた。
時を置かず「今日もかわいいねー」という声がして、田中の笑い声が響く。
ふと茉莉の涙を思い出す。
茉莉……。
燎の帰国祝いにまさか彼女が来ているとは思わなかった。