双子パパは今日も最愛の手を緩めない~再会したパイロットに全力で甘やかされています~


 ロッカーで着替えを済ませ腕時計を見た。

 予定より三十分早い出勤だ。

 出発前の一時間半前に出社する規定になっているが、気象庁の天気図を見て停滞している前線が気になった。コーヒーでも飲みながらパイロットレポートを見ようと思い早めに来たのである。

 運行管理部へ行き、まっすぐコーヒーサーバーに向かう。

「神城さん、おはようございます」

 ブレンドのボタンを押そうとした手を止めて振り返ると、新人のCAがいた。

「今日はよろしくお願いします」

「おはようございます田(た)中(なか)田中さん。よろしくお願いします」

「名前、覚えてくださったんですね」

 前回同じチームだったが、彼女はCA間でのブリーフィングに遅刻していた。先輩CAに怒られ号泣し、泣くなとまた怒られていた新人だ。フロアに響いた『すみません!』という泣き声は忘れようがない。

 だが、そうとは言えないので無難に返す。

「一度でも同じチームになったメンバーは忘れません」

「あ、そ、そうでしたか。あの、コーヒーお入れしましょうか?」

 期待に満ちた目をする彼女を「いえ、結構」と軽くいなし、「そうですか」という細い声に背中を向けた。

 時を置かず「今日もかわいいねー」という声がして、田中の笑い声が響く。

 ふと茉莉の涙を思い出す。

 茉莉……。

 燎の帰国祝いにまさか彼女が来ているとは思わなかった。

< 84 / 292 >

この作品をシェア

pagetop