月とスッポン 奈良へ行く
渋々と言った感じで助手席に乗り込み。
「後ろでもいいんですよ」
私の視界に入らないところであればと言えば、
「私の事は気にせずに、ひとりだと思ってください」
これで何度目だろう。
何を言っても無駄だな
とため息をつき、出発前のルーティンをこなす。
シートを調節し、エンジンをかける。
スマホをいじり、今回のドライブお供のプレイリストを選択して音量調整する。
軽快に流れ始めた音楽を確認しつつ、飲み物と小腹用のお菓子のセッティングをする。
物凄く視線を感じるが、「私はひとりだ」と心の中で言い聞かせ、車を走らせた。
車の流れに身を任せながら、流れてくる音楽を口ずさむ。
それでも、否が応でも器用に足を組み腕を組み、優雅に目を瞑っている男が視界に入ってくる。
その男を横目に見て、大きなため息をつく。
「誰もいない。私はひとり、私はひとり」
と呪文のように呟く。
『僕らはもうひとりじゃない♩』
なんてタイミングだ!
小さく唸っていると、「クッ」と小さく笑う声が聞こえる。
運転をしていないなら、穴が開くほどニラつけてやりたい。
「ひとりじゃないそうですよ」と人をバカにするように男は言う。
「うっさい」
反射的に即ツッコミを入れてしまった。
「次で降ろす。絶対に置き去りにする」