月とスッポン  奈良へ行く
石上様から始まる

車から降りて、手を空高く伸ばし軽くストレッチをする。

ようやく念願の奈良に到着した。
それだけでテンションが上がる。

視線を山々に移し、運転で疲れた目を癒す。

大きく深呼吸をして朝の澄んだ空気をゆっくりと体に染み込ませる。

それだけで、ここに来た甲斐があった。

地図アプリを開け、これからのルートを確認。

「いざ行かん、悠久の旅」

“おー”とひとり気合いを入れる。

「“悠久の旅”という事は、東大寺などの世界遺産を回るのですか?」

車を降りて、ふらっと姿を消した男が帰って来た。
手には怪しげな瓶を持って。

「どうぞ」と差し出される。

手に取ってみれば【忍ジャーエール】と書かれている。

「何これ」とラベルを確認してから蓋を開け、一口。

「あっ、うま」と喉を潤せば、驚いた顔でこちらを見ている。

「何ですか?」

懸念の表情を浮かべれば
「いえ、何の抵抗もなく飲むんだなと」
人に差し出しておいて不思議そうな顔をするにはどうなのだろうか?

「信頼してますから」
「私をですか?」
どこにその要素があったのか?
なわけないとちゃんと訂正は入れておこう。

「この”酒蔵を“です。
何かのサミットの乾杯酒に選ばれた酒蔵ですよ、そこ」
「詳しいのですね」

「仕事柄です」
「なるほど」

と言いつつ、またさりげなく運転席に乗ろうとするのを、「あっち」と指を助手席を指す。

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