月とスッポン  奈良へ行く
バレたと少し肩を上げる。

このやりとりが気に入ったようで、交代の度に繰り返されている。
そろそろ「めんどくさ」と思わず本音が漏れる。

「楽しくないですか?」
と助手席に座りながら
「私にも一口頂いてもいいでしょうか?」
と【忍ジャーエール】に手を伸ばす。

「楽しくないです」と【忍ジャーエール】を手渡し、「あなたが買ったものものなので」と一言。

興味深々にラベルを読む男を横目に、運転前のルーティンをこなした。

「では、石上神宮に向かって出発です」

よしっと気合いを入れて、アクセルを踏む。

「石上。日本最古の神社」

よく知ってるなぁと思って横目に見れば、【忍ジャーエール】片手にスマホで検索している。

「予習復習は欠かさないタイプなんですねぇ」

なんて良き槍を入れている間に目的地に到着する。

大きなバックは必要ない。
この旅のために新調した小銭入れ付きスマホショルダーを手に取り、
「行きますよ」と声をかけながら車から降りた。

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