月とスッポン  奈良へ行く
チノパンに、白シャツ。ジャケットというシンプスな服装が、まるでCMみたいだ。
それに比べて私は、動き易さ歩き易さを重視したおしゃれを二の次にした服装。

何だか並んで歩くのが恥ずかしくなる。

だが‼︎

私は負けない。ひとり気ままな旅。誰にも気を使わず、他人の視線にも負けず、1人を楽しむ旅。

気にしたら負けだ。
あいつが、あの男が勝手について来ただけなのだ。

私は悪くない。
そうだ、私は負けない。気にしない。

両手を空高く伸ばし、大きく伸びをする。
「よしっ」と気合いを入れた。

手水舎で手口を清め、ハンカチを取り出す。
ゆっくりと丁寧に心を落ち着かせる。

見本VTR見たいな男の事は放っておこう。
ハンカチを取り出す姿すら、絵になりやがる。

廻廊や楼門の写真に収めたい気持ちをグッと堪える。
何はともあれ、拝殿にご挨拶をせねば。

会釈をして、お賽銭とそっとお納めする。

背筋を伸ばし、深くニ礼。右手を少しずらし手を合わせる。遠慮がちに二回手を打ち、そっと目を閉じた。

隣に人が立つ気配を感じる。

いつも長めに挨拶の時間を取るため、角にいるから邪魔にはなっていないはず。でも、少しだけ横にずれる。

パンパンといい音が鳴り、立ち去る足音を確認してから、挨拶の続きをする。

最後にもう一度深くお辞儀をして振り返る。

授与所にいる男を確認してから、拝殿や楼門を写真に収める。

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