月とスッポン  奈良へ行く
「結構です。って言うか、ちょいちょい気になってたんですけど、
“あなた”とか言うのやめてもらっていいですか?」

「あーちゃん?」

首を傾げながら言うな。あざと可愛いではないか。

「きもっ」

苦笑いをしながら男の横を通り過ぎる。

「佐山茜さん」
「なんでしょうか?大森大河さん」

私の横に並び歩き出す。

「置いていかないでください」
「見える範囲内にいるには置いていくとは言わないと思います」

立ち止まり振り返り廻廊を写真に収める。

「佐山茜さん」
「なんでしょうか?大森大河さん」

「キモいって初めて言われました」
「でしょうね」

写真映えしそうな鶏を選んで写真撮影をする。

「佐山茜さん」
「なんでしょうか?大森大河さん」

「なんでもありません」

イラっとして無視をする。

大鳥居をくぐり、振り返って深くお辞儀をする。
鳥居を写真に収めるのも忘れずに。

「佐山茜さん」
「ってか、フルネームウザい」

「ウザい。それも初めて言われました」

人を不快にさせるワードを口にしているはずなのに、それを聞いた本人はなぜ嬉しそうなんだ。マゾか?

私は彼の開けてはならない扉を開けてしまったのか?

「では、茜。次はどこの目的地はどこですか?」

急に呼び捨て。
距離の積め方おかしくないですか?

それを言えば喜ぶ気がした。ここは気にせず流すのが1番。
呼び捨ては、慣れてる。
そちらがそう出るなら、こちらもそう出るだけ。

「次は大神神社です」
「おおみわ」

「通称三輪明神。日本最古の神社。創建不明」

スマホ片手に、検索結果を読み上げている。

なんでも声に出せとは言ったが、それまで声に出さなくても。

と思ったが、聞かなかった事にしよう。

最後に社号表を収め、「最後にもう一度深くお辞儀をした。

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