月とスッポン  奈良へ行く
大神様へ
 どこかに電話をしている大河と距離を取り、並んでいる出店を確認しつつ、参道を歩く。

大きな境内マップを確認。

「お待たせしました」

「待ってませんが」

そう言おうと思ったけど、なんだかんだで電話を終わるのを待っていた自分に気づく。

「仕事ですか?戻らないと行けないなら、駅はすぐそこですよ」

我ながら可愛くない発言だ。

「いえ、慶太郎に。サプライズは嫌いでしたよね。
あとでちゃんと説明します。
今は大神神社を楽しみましょう」

今度は私を追い越し、二の鳥居の前で会釈をし、軽い足取りで境内を歩いている。

弾んでいる。

大の大人が、スキップでもしそうに弾んで歩いている。
楽しそうでなによりです。

祓戸神社で清め、拝殿へご挨拶に向かう。

車中では途切れなかった会話だけど、境内ではお互い言葉を発しない。

ただゆっくりと境内の空気を堪能する。
お互いの砂利を歩く音だけが聞こえてくる。

気を使わないと決めている。

だけど、誰がいて無言の状態が苦ではないのは海以外初めてかもしれない。
達ちゃんも苦ではない。
でも、2人とも私にとっては家族枠。

彼らと大河、何が違うのだろうか?

でも、ここはやっぱり気にしない。考えない。
それが一番。
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