月とスッポン  奈良へ行く
授与所の横を通り過ぎようとすると大河と目が合う。

「先に向こうに行ってる」と声をかけると
「やっぱり1人じゃないんだ」と落胆のため息が聞こえる。

「彼女とデートって感じでもなくない?」
「妹のお付き合い?」

きっとそんな事を言っているに違いない。
デートではない事は正解だが、妹ではない。

平日にも関わらず、ここは人が多過ぎる。

可愛い“なでうさぎ”を撫でながら、心を癒そう。

「この上にある狭井神社に足を伸ばしてもいいですか?」
「もちろんです。宝物収蔵庫も見たかったんですけど、土日しか見れないみたいです」

「それは残念です」
「大神神社の境内もまだまだ見どころがいっぱいあるようなので、次回ですね」

万病に効くと言う井戸水をそっと手を濡らし、左足にそっとあてがう。

病気でもないし、完治済みなのだが。そのままそっと胸に手を当ててた。

「病は気から」だ。
もう2度と痛み出す事がありませんよに。

「お待たせしました」

御朱印帳を抱えてやってくる。待ってはいない。
でも、まいっか。

「薬品関係者でしたっけ?」
「違いますけど、顧客には薬品関係者もいますので。
彼らの繁栄は我々の繁栄でもありますから」

そういう意味ならうちの店だって、無関係ではない。

どこかの誰かが儲かれば、どこかで飲んで帰ろうとなる。そのうちの一つがうちの店かも知れない。

社会の循環といったところだろうか。
もう一度、拝んでおこう。

< 30 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop