月とスッポン  奈良へ行く
 参道には三輪入麺の店が並んでいる。

どこか入ってお昼にしようかとも思うけど、それよりも屋台の揚げ物やたこ焼き、たい焼き達が私を呼んでいる気がする。

「出店で何か買って、移動しながら食べませんか?」

いつの間には手にしている甘酒を「美味しいですよ」と手渡された。

この人はなぜ、2つ買わないのか?
そして、なぜ私に飲ませようとするのか?

「そこで買いました。
本当はお酒が気になったのですが、アルコールは運転に支障を来たしますので」

振り返れば、蔵元という文字。

「飲んで電車で帰ればいいんじゃないですか」

と言いつつも甘酒を受け取り一口。

「うまっ」
「相変わらず抵抗なく飲みますね」

「そこの蔵元を信頼してますので。
日本酒も評判良いですよ。奈良で1・2を争う蔵ですから」
「それは知りませんでした。買ってきます」

そう言い残し店に入っていく。

次の経路を確認している間に戻ってきた大河が

「いいものが買えました」

満足そうに日本酒を掲げる。

私はこの人の買い物スイッチを押してしまったのだろうか?
でも、旅先で迷ったら買うは鉄則だ。

「何を食べますか?」
「迷いますねぇ。
出店って言うだけで美味しそうで迷います。
でも、唐揚げは食べたいです」

「出店の定番ですね。唐揚げかたこ焼きか。
両方買いましょう」
「“自分の分は自分で”でいいんじゃないですか?」

「2人で食べた方が色々食べれて、良いと思いませんか?」
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