月とスッポン  奈良へ行く
ああいえばこう言う。

会話のリズムなんかは心地良いとさえ思うが、だんだん遠慮がなくなっている気がする。

気を使わないから良いんだけれども。
どこが一人旅にただついて行くだけの人間なのか?

「あっ‼︎たい焼き‼︎
屋台と言ったら、たい焼きでしょ。すみません」

はっ、疑問に思ったら負けだ。

この流れを途切らす為、私のたい焼きを手に入れる為に、たい焼き屋のお兄さんに声をかける。

ゲットしたたい焼きを持って振り返れば、大河はたこ焼きを買っている。

なんともいえない。
これほど出店が気合わない男がいるのかとも思うし、その不自然さが逆に絵になるとも言える。

見なかったことにして、「唐揚げください」とお姉さんに注文する。

「大きさは?」と聞かれ答えようとすると、
後ろから「1番大きいのでお願いします」と声が聞こえる。

さっきまで無愛想だったお姉さんの声のトーンが上がる。

「お兄さん、俳優さん?イケメンさんね。
おばちゃん、テンションあがっちゃう。サービスしときますね」

と超大盛り唐揚げを渡される。

「ありがとうございます」とニコッと笑えば、キャーと黄色い悲鳴が聞こえる。

「なんかたこ焼きも多くないですか?」
「こう言った出店で買うのは初めてだとお話をしたら、“初めて記念に”と頂きました」

顔がいいとこう言う特典があるのは知っている。
それは、女だけではない事を初めて知った。
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