月とスッポン  奈良へ行く
ナビが心配になる細い道を進み、駐車場に到着する。

近づいてきたおじさんと大河が話をしている間に、出発の準備を整える。

「正面から入りましょう」

あえて遠回りをして、入山受付に向かう。

社号碑の後ろ 長い階段の上にそびえる仁王門。
その向こうにはあの登廊が待っている。

いざいざ

「今日は人が少ないので、ラッキーですね」

“誰もいない登廊が収めれるかも”と期待しながら登って行く。

 第一関門を突破し、受付に到着。

仁王門の貫禄に圧倒されている間に
「行きますよ」とチケットを振っている。

会釈をして、顔を上げれば広がる登廊。

「これは凄いですね」

一歩踏み出そうとする大河に
「動かないで」とストップをかける。

誰もいない登廊。
今しかチャンスはない。
奥で歩く歩行者が曲がるのをじっと待つ。
曲がった瞬間、急いで写真に収め、確認する。

「ありがとうございます。これが撮りたかったんです」

「満足です」とスマホを見せると、
「圧巻でする。私にも送ってください」

「自分でも撮りなさいよ」

とは思ったが、自分の写真に大満足のその時の私は、
「このアングル欲しいよねぇ」と納得してしまった。

これが大河の手口だとあとで思い知る事となる。

ニコッと笑い、「さぁ、登りましょう」と一歩を踏み出した。

下廊と中廊の間にある繋屋にたどり着く。
天狗杉を見上げる大河を退かし、あのアングルの写真を撮る。

「同じ景色」

ため息が漏れる。
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