月とスッポン  奈良へ行く
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『あーちゃん』

いつもより低いテンションの海に「何かあった?」と声をかけた。

『本当にごめんなさい、私の力不足で。次会う時になんでも奢るから私の事嫌いにならないでね』

「なに?なにがあったの?」

と言おうと顔を上げると、コンビニの雑誌コーナーに見覚えのある人影。

気づかなかった事にしようとそっと外に出た。

「なんかいた」

知っているようでよく知らない人物。
私を荒海に放り出した張本人。
関わってはいけないと本能が言っている。

車体の影に隠れつつ、海に伝える。

「あいつがいる。大森 大河(おおもり たいが)がいる」

絶叫したいのをグッと我慢。
見つかるわけにはいかないのだ。

『本当にごめんね。あーちゃんが奈良に行くって言ったら、一緒に行くって言い出して』
「ごめん。ちょっと意味わかんない」

『だよね。私も理解できてない。
で、行く前にいつものコンビニへ寄るって話しちゃって』
「話しちゃったんだ」

『うん』と沈黙が流れる。

百戦錬磨の男の前に、勝てる訳もない。
どうしたものかとため息を吐く。

ここにいてもしょうがない。

見つかる前にさっと車に乗り込んで出発してしまえ!とドアノブに手をかけた。

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