月とスッポン  奈良へ行く
よし、話を変えよう。

「晩御飯は何食べる?」
「晩御飯は何にしましょうか?」

ハミってしまった。

「朝、昼共に軽くしか食べてませんからね」
「ぶっちゃけなんでもいいけどね」

「なんでもいいは禁句ではありませんでしたか?」
「マジでなんでもいいんです。お腹は空いているので満たされればなんでもいいんです」

「それでいいのですか」
「安くてお腹が満たされれば、ファストフードでも十分です」

「海と出かける時はどうしているのですか?」
「出先の特産品があれば、それを食べたりはしますけど、基本は県内に2店舗ぐらい持っているイタリアンとかを狙います」

「なぜですか?」
「失敗はないからですかね」

「そういうものですか?今回はどうするつもりだったんですか?」
「えー。ファストフードとか簡単に済ませるか、ネットカフェで何かつまむかじゃないですか?」

「それは・・・」

言葉に詰まるには、考え方の違いか、世代の違いか。

「何か食べたいものもないのでしょうか?」
「お腹は空いているので、貯まれば。
あっ、肉が食べたいです。どこか食べ放題とかないですかね」

「食べ放題ですか?」
「お腹いっぱい食べたいので」

「そうですか」と呟くとどこかに電話を始める。

電話の為にどこかに行く事なく、会話をしている。
誰かに店を聞いているようだ。

電話を切ると、すぐにスマホを操作し始め、「さすが、仕事が早いですね」とまた呟いた。

余分な事は一切口に出さない無口な人というイメージが、よく話す人に変わっていく。
こんなに話す人とは驚きだ。

「それでは慶太郎のおすすめの店に行きましょうか」

運転席に乗り込み、スマホを弄っていたかと思うと「ではあるので出発です」と車を発進させる。

ナビ設定は?必要ないこの人の頭の中を見てみたい。ちょっと羨ましい。

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