月とスッポン  奈良へ行く
腹が減っては
 開店前なのか、暖簾がかかっていない。

「行きますよ」と躊躇なく店に入って行こうとしている。

同じ業種の人間からすればかなりの抵抗がある。

「まだ空いてないでしょ」と慌てて大河を止めるが、
「大丈夫です」とドアを開けた。

「ご無沙汰しております」

奥から出てきた恰幅の良い中年の男性が出てきた。
大河とも知り合いらしい。

「開店前にすみません。地元に帰ってお店を継ぐとは聞いていましたけど、こちらだとは」
「嫁の実家なんです」

恰幅の良いおじさんが、席を案内してくれる。

「まずはビールですか?」
「いえ、車ですので」

「では、ノンアルコールのビールですね。最近のは結構美味しいですよ。お嬢さんは?」
「私も同じので」

「とりあえず、それで乾杯しましょう」

遠慮していると思ったのか。

「後で注文すればいいですよ」と私に微笑む。

恰幅の良いおじさんは、驚いた顔でこちらを見ている。

大河は気にする様子もないから、私も気にするのはやめておこう。

「まずはおすすめのモノをお願いします」

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