月とスッポン  奈良へ行く
「じゃぁ、次はコレを食べてみてよ」
と恰幅の良いおじさんが次から次へとお肉を運んでくる。
料理の注文は恰幅の良いおじさんに任せよう。

気がつけば、店は満席になっていた。

私達に肉を届ける最中にも常連と思しきお客とにこやかに話している。

このおじさんと話したくて、みんな来るんだ。
って事は、とってもいい店だ。

「少し席を外します」

スマホを片手に大河が店を出た。

この瞬間を待っていましたと言わんばかりに恰幅の良いおじさんが話しかけてくる。

「私が辞める少し前に妹がいたと言っていたけど、お嬢ちゃんがその妹?」
「その妹の友人です」

「そうなんですか。あんな大河君を見たのは初めてなので驚きました」

優しい顔で恰幅の良いおじさんは肉の説明しつつ、焼きつつ、自分の知る大河を話してくれた。

概ね、私の初めの印象と同じ。

「本当は1人で奈良に来るつもりだったんですけど、なぜかついてきたので。
気を使いたくないので、“思った事を全て口に出せ!”って言ったら、あぁなりました」

ふっ。と声が漏れたかと思ったら、恰幅の良いおじさんが爆笑している。

「言葉に出さないだけで、色々考えていたって事でしょうね」
「そうみたいですね」

戻ってきた大河は
「何を話していたのですか?」
と不思議そうな顔をしている。

「悪口です。で、仕事で早く戻ってこいっていう電話ですか?まだ最終に間に合うと思いますよ」
「帰りませんよ。明日も奈良で御朱印を貰います」

力強く言う大河。
苦笑いをする私。
爆笑する恰幅の良いおじさん。

楽しくて食が進む。

私は冷麺を大河はビビンバを食べ、さっぱりシャーベットで締める。

流石にお腹がはち切れそうだ。

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