月とスッポン  奈良へ行く
「茜」と大河に呼ばれて、振り向けばまたあの黒い笑顔で立っている。

「よろしくお願いします」

しぶしぶ鞄をスタッフに手渡す。

ククク
と悪役さんが笑う声がする方をみると1人の男性が立っていた。

大河は悪役さんに気付き驚いた顔をしている。
そんな事もお構いなしに

「久しぶりやな。頼まれた物持ってきよったで」

と会話が始める。

「1週間ぶりですね。ありがとうございます。あなたが直々にいらっしゃるとは思いませんでした」
「大河が女と来ると聞いたから、どないな子か気になってな」

「暇なんですね」
「暇やないわ。
ちょうどこっちに来てたから、名乗りをあげただけや」

存在を消していればいいのか。
と黙っていれば、

「それにしてもえらい若い子やな」

見るからに高そうなスーツを着ている大河の知り合いらしい男が、私をマジマジ見る。

いやらしいというより、珍獣を見ている目だ。

そりゃ、そうだろ。
通常交わる事のない人種同士が共に行動しているのだから。
いない物として扱って欲しいのだが。

「自分が女と来るって聞いたから、部屋を一つしか押さえてへんで」

本人は大河に
小さな声で報告しているつもりなのだろう。

静まり返ったエントランスのせいかのか、地声が大きいのか、よく通る声のせいなのか。
私の耳にもはっきりと聞こえる。

大河が困った顔をする。
仕方がないので、参戦します。

「別に構いません」

はっきりと答える私の顔を2人揃って同じ顔で見るな。

「えっ、ほんまにええん?
男と女が一つの部屋に入る意味がわかれへん年齢ちゃうよね?」
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