月とスッポン 奈良へ行く
間話 大河side
「今時の子は、ようわからへんわ」
「茜が今時の子に分類されるかは、疑問ではありますね」
ホテルの従業員に案内されていく茜の後ろ姿を見ながら、答えた。
「ジブンがそないに表情豊かに話しとる姿初めて見たで」
大学からの知り合いである矢倉 真司(やぐら しんじ)が、謙太郎に頼んだはずの荷物を持ってくるとは予想外だった。
よくいえば好奇心旺盛な彼が、この状況を面白く思わないわけがない。
全く面倒な事になったとため息が漏れる。
「で、なんでこないな事になったん?」
聞き出すまで、帰さないと言わんばかりにロビーのソファに座らされた。
1時間ほどの時間潰しに付き合って頂きましょう。
「偶然ですよ。大きな仕事がようやく目処がつき、落ち着いたのでゆっくり休むように、懇願されまして。
文字通り休みなく働いていましたからね。私が休まないと部下達も休みにくいそうです。
そんな時にちょうど彼女が奈良へ行くと聞いたので、便乗させていただいただけです」
「ジブン、10文字以上話せたんやな」
大人しく人の話を聞いていたと思ったら。
「ふっ」と笑いが漏れる。
「今、バカにしたやろ」
「必要があれば、話しますよ」
「必要やろ‼︎会話はコミュニケーションの基本やろ。話せるなら、最初から話いや。
そうやつや思て、気ぃ使わすなや」