月とスッポン  奈良へ行く
良い学校に行きなさい。
有名な大学に行きなさい。
会社のトップになりなさい。

と育った私には身近にはいない存在だった。

「なんや考えさせられるな」
「そうですね」

本当に思いつきで、奈良に着いていくと決めた時、海に言われた事を思い出した。

『あーちゃんは私の恩人であって、親友でお姉ちゃんで、本当に大切な人なんです。
でも、あーちゃんは自分に価値がないって思って。

お母さんの事も、“それで自分が生きてて良いって思いたいから、気にするな”っていう子なの。

だから、あーちゃんを傷つけたら絶対に許さない。それだけは覚えておいて下さい』

あれだけ言っていたにも関わらず、私を茜の元へ行かせた海の行動が不可解であった。
それが何故なのか、行動を共にしていてわかる気がした。

彼女は、生きる事に執着がない。

1人にしてこのまま消えてしまう事を海は恐れている。
暇なら、茜を見張ってとでも言いたかったのだろう。
そう私は解釈していた。

「せやけど、働いとったからといってもあれだけ勘のええ子なかなかおれへんで」
「相手が何を言うか分かった上で、会話をしている様に思います」

「ほんまそんな感じやな。言いたいこと言わされた感があるわ」
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