月とスッポン  奈良へ行く
言葉の魔術師の異名を持つ真司。

軽薄な雰囲気の中、相手を手玉に取る真司の感覚は鋭い。

「相手が何を言いたいのか、どんな扱いを受けたいのかを本能で嗅ぎ分けているのだと思います」
「[怒られない様に、嫌われない様に]やな」

「本人はそれが疲れるので、1人になる為に奈良に来たそうですけどね」
「それ自分に邪魔されてるちゅう訳か」

「海が、妹が心配していたなので、お目付役をかって出ただけですよ」
「物は言いようやな」

時計を見ると1時間以上の時が過ぎていた。
ちょうどいい時間だろと荷物を持ち立ち上がる。

「ありがとうございます。助かりました」
「お礼は、今度東京へ行った時にもらうで。奈良を楽しんでな」

「次、俺と会う時も思た事を全部口に出せや」
「考えておきます」

渡された鍵を手に部屋へと向かう。

しんと静まり返った廊下を歩けば、自然と欠伸が出る。

「流石に疲れたので、すぐに寝ましょうかぁ」

独り言を声に出し言っている自分に、少し笑えた。

体力的にはハードな一日だったが、気持ち的には今までにない楽しいと思える一日だった。
それはまた一日あると思うと、明日の為に体力を少しでも回復しよう。

そう思いながら、部屋のドアを開けた。

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