月とスッポン  奈良へ行く
一日の源は朝食から

アラームよりも少し早く目が覚める。

清々しい朝だ。
今日も一日お願いしますと、ストレッチをする。

ベッドの方に目を向ければ、枕を抱き締めながら眠る大河がいた。

なんか可愛いと思ってしまうのは、ギャップのせいで大河のせいではないはずだ。

寝ている間に準備を整えてしまおう。

着替えやケア用品一式が入った鞄を抱え、パウダールームに駆け込む。

今日の主役である足だけは念入りにマッサージをする。

「一人旅なんだから、いつも通り」と、手を伸ばしたファンデーションを戻し、色付き日焼け止めだけにとどめておく。

準備を済ませ部屋に戻れば、寝起きらしい大河がコーヒーを淹れていた。

「おはようございます」

朝の挨拶をすれば、

「おはようございます。ついでに淹れたので、よかったらどうぞ」
とコーヒーを手渡れた。

いい宿のコーヒーはとてつもなくいい匂いがする。

「早いので、まだ寝ていても大丈夫ですよ」

そのまま深い眠りに落ちないかな。とベッドを指す。

「一緒に寝て頂けるのですか?」

うっ。そう来たか。
コーヒーのいい香りに心を癒してもらおう。

「はぁ、いい匂い」

もう少し1人の時間を満喫したのに。

ふっ、笑い声が聞こえる。

「法隆寺は8時から拝観出来る様なので、少し早いですけれど、朝食を頂いて早速出かけませんか?」

すでに準備を終えた私には、否定する理由はない。

「しばし1人の時間を満喫して下さい」

やっぱりこいつ、可愛くない。

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