月とスッポン  奈良へ行く
なんとも言えない気持ちになる。

だが、私は負けない!気にしない。
今日だけなのだから、もうないのだから。
楽しんでしまったもの勝ちだ。

廻廊で囲まれた中に佇む五重の塔を見上げる。

遠くから建物の重厚感を感じ、近くに行って細部の細かさにため息をつく。

「すごい」

ため息と共に言葉をはく。

「日本最古の存在感は、言葉になりませんね」
「日本最古・・・」

「1000年は越えてますね。もちろん、誰が建てたかはご存知ですよね」

ん?バカにされている?
知ってるし!貰ったパンフレットに書いてあるし!

ふっと鼻で笑って、聞き流す。

大講堂で、ご挨拶。

「ちなみに隣の金堂にある釈迦尊像は、昨日見た飛鳥寺の大仏と同じ人が作ったんですよ。見ましょう」

大講堂へと足を向けている私を引っ張っていく。

個人行動でよくないですか?

「中には入れない様ですね」

だから、私を引っ張るな!

「でも、外からでも見られる様です」

格子越しに二人並んで中を覗く。

国宝の仏像よりも、歴史的価値のある壁絵よりも、堂内の装飾に言葉を奪われる。

うん、これずっと見ていられるやつ。
あぁ、写真を撮らないからカメラのズーム機能を使わせて欲しい。

「息をする事すら忘れそうですね」

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