月とスッポン  奈良へ行く
 体制を整え文句を言おうと運転席を見ると、ウキウキとシートベルトをしエンジンスタートを始めている。

「近くの駅までですからね。
この車で事故とか勘弁してください。事故っても保険使えないんですから。
絶対無茶な運転しないでくださいよ。」

懇願する私を無視して「ハンドル軽いですね」とか「シートは少し固いかな」とか言いながら、車を走らせていく。

「そこ右‼︎」
あぁ、駅から遠ざかっていく。

時すでに遅し。
嵌められた。

お気に入りのおもちゃを目の前にした子供のように目が輝いている。

「大丈夫です」

語尾にキラキラと星が見える。

「あんたじゃなくて、こっちの心配をしてるんです」
「車ですか。問題ありません」

「問題だらけだよ」

高速に乗りスピードが上がっていく。

流れる街並みを遠目に「なぜこうなった」と呟けば、「なぜでしょうね」と返ってくる。

「私の事はいないと思って頂いて結構ですよ。
思う存分楽しんで下さい」

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