月とスッポン  奈良へ行く
 手招きされたので、近寄っていけば
「いっぱいあります」と目を輝かせている。

「全部貰えば?」

何も考えずに言えば
「全部はダメです。1箇所1個です」
とマイルールを言い渡させる。

知らんしとは思ったが、
「重要なのは印なので、気に入ったモノにすればいいじゃないですか」
と真っ当な意見を言っておく。

「では、“以和為貴”でお願いします」

慣れた手つきでご朱印帳を差し出す。

「“以和為貴”は、十七条憲法の一つ目に書かれている言葉でして。十七条憲法とは、604年に聖徳太子が制定した全17条からなる日本最初の成文法なんですよ」

「それぐらい知ってるし」とは喉まで出かかったが、グッと堪えて「そうなんですね」と聞き流しておこう。

「聖徳太子は31歳だったと言われています。同年齢です。すごいですよね」
「そうなんですね」

しみじみしている。

放置すべきか、慰めるべきか、否定するべきか

悩んでいる間に、御朱印は書き終わったので、聞かなかった事にしよう。

「では、大宝蔵院へ行きましょう」

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