月とスッポン  奈良へ行く
【これより撮影禁止】と書かれた塀で囲まれた道を歩いていく。

「で、何をお願いしているのですか?」
「はい?」

「どこででもしっかりとお参りをしているので、何をお願いしているのだろうかと気になりまして」

続いていたのか!

「そう言う大河さんは何をお願いしているんですか?」

秘技オウム返し。

「私は“商売繁盛”ですね、月並みですけど」
「社を背負って立つ人は大変ですね」

「で、茜は?」

言うまで解放されないらしい。

まぁ、たいしたことないからいいけど、こいつめんどくさい。

「願い事はしてないです。ただ来た事に対しての感謝と写真撮影の許可申請をしているだけですから」
「お願い事をしていない」

「してないですね。神様にお願いしてまで叶えたい事なんてないですし」
「ないんですか?」

「ないですね。強いて言えば、“彩綾さんが安らかに過ごせます様に”ぐらいですかね。でも、それを叶えるのは私ではないみたいですし」

封鎖された誰もいない道は、少しだけ真剣な話をするにはちょうどいい。
広がる空が話を少しだけ軽くしてくれる。

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