月とスッポン  奈良へ行く
鹿と春日
 街中を普通に歩いている鹿に驚いていれば、興福寺に到着していた。

駐車場のおじさんに案内されて車を停める。

こういう場所のおじさんは、横柄な人が多い印象があるのに、皆大河には親切だ。
なんかムカつく。

「それは偏見ですよ。どんな方にも丁寧に接すれば、丁寧に返ってきます」

眉間に皺を寄せ大河を見れば「声が漏れてます」と言われた。

でも、絶対に高身長で品のある男性だからだと思う。

車を降り支度を整える。

「右から回りますか?左から回りますか?」
「左から春日大社に行って、バスターミナルの所のお土産屋さんに寄って、興福寺に戻ってきましょう」

同時に言って、お互いの顔を見合う。

駐車場の受付から貰って来たであろう地図を片手の大河。
自分のスマホに予め入れておいた奈良公園マップを片手の私。

そんな悲しそうな顔をされても。
いないと思ってくれと言ったのはどこ口か。

放っておこう。

歩き始めて、改めて思う。

さすが県庁所在地。日本屈指の観光地。
平日の昼間だというのに人が多い。

これから行く人、帰る人。

すれ違う人の視線を大河に向けられているのがわかる。
こういう時は離れるのが1番。

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