月とスッポン  奈良へ行く
ニ之鳥居をくぐり、緩やかな階段を登れば、そこはあの、あのCMで見たあの光景。

いないはずのあの人の姿を思い浮かべて「はぁ」と息をはく。
 
拝観所で、ここに来る事が出来たことを感謝して振り返れば、小脇に御朱印帳を抱えた大河がお参りしていた。

「写真を撮るなら、中の廻廊がお勧めだそうですよ。行きましょう」

手首を掴み、特別拝観の受付を通過していく。

案内板がある灯籠に目を止めれば
「藤堂高虎、直江兼続、徳川・・・」
と奉納した人物の名を読み上げる。

「こういったものを見ると実際に存在した人物なんだと感慨に浸りますよね。
もちろん徳川綱吉はご存知ですよね」
「徳川時代の将軍」

反応が怖いので、大河の方を見ずに答える。

「直江兼続」
「兜に愛って書いてある人」

「藤堂高虎」
「武将」
「宇喜多秀家」
「・・・」

あっ
「経路はあっちみたいですね」

こういう場合は話をぶった切る方がいいに決まっている。

あれだけいた人は、拝観料を納めないと入れない場所になると一気にいなくなる。

これは!
あの写真が撮れる。
誰もいない場所に、彼の方の姿を思い浮かべてながら、撮影していく。

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