月とスッポン  奈良へ行く
トドメの興福
 買ったモノを車に置き、今回の最終目的地となる興福寺へと入っていく。

何気なく券売機に近づいていき、操作を始める。

近づいてきた大河に、後ろから覆い被さる形で、お金を入れようとする。

「二人一緒の時は私が払う約束です」

視界が急に暗くなった拒絶反応で、大河を押し除けようとするが、動かない。

息を整え、横へズレる。
肩で大きく息を吐く。

「何度も言っていますけど、本当に、本気で後ろに立たないでください」

冗談ではなく、本気で私が嫌がっている事が通じたのか
「ごめんなさい」と頭を下げる。

大の大人が小娘に頭を下げる様子は、さぞ奇妙なモノだったであろう。周りの視線が痛い。

「わかってくれればそれでいいです」

しょぼくれている大河に「行きますよ」「置いて来ますよ」と声をかける。

嬉しそうに顔をあげ、小走りで私の横を歩き出す。

「楽しくて調子に乗りました。ごめんなさい」

母親に怒られた小さな子供みたいに謝る大河が可愛く見えるのは、末期症状なのかもしれない。

「もう(やらなければ)いいですよ」
「以後気をつけます。では行きましょう」

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