月とスッポン  奈良へ行く
抱きつく私と海を剥がすように、慶太郎が海の肩を抱く。

「海の為に二人が交流するいい機会だったでしょ」

“海の為”をやたら強調する慶太郎。

海との関係は変わる事はない。海のいる環境が変わっただけ。
だから、私からそちらの世界に歩み寄る必要はないと思っていた。

私を巻き込むなと。

「ね」と満足そうな慶太郎と
「そうかなぁ」と疑心暗鬼な海。
「いい機会でした」とご満悦に大河。

なんだこれ?

旅の疲れがどっと出る。

悪い大人達は無視しよう。

車から荷物を取り出し、
奈良で手に入れたお土産を海に渡す。

「これ、お土産!鹿の角ピアス」
「ありがとう!ねぇ、鹿いた?」

「マジで普通に道を歩いてた!写真見る?」
「見たい!」

海と腕を組み、階段を登って行く。

後を追う悪い大人達に「帰れ」と手を振る。

「運転で疲れたのに、休ませてはくれないんですか?」
「そのための向かえですよね?」

慶太郎をコレと指しながら言う。

「俺が帰る時は海も一緒だ」

しれっと惚気るでない。
海も嬉しそうに照れるな!

一気に騒がしくなった気配を察した達ちゃんが店の外へと顔を出す。

「おかえり。外で騒ぐなよ」

怒られてしまったので、大人しく解散しよう。

「今度ゆっくり」

海と約束をして、3人は帰って行った。

一人取り残された部屋で、さっきまでの賑やかさが寂しさを増幅させる。

スマホの通知を見れば
『お疲れ様でした。また次回』

大河からのメッセージに「次はないよ」と小さく微笑んで呟いた。
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