月とスッポン 奈良へ行く
二つ目の長谷 (後日)
慶太郎が出張でいないからと久しぶりに、
ジャンキーな食べ物をテーブルに並べて海と一晩中語り合った次の朝。
なぜか大河の車に乗せられている。
なぜだぁ‼︎
「いい天気でドライブ日和ですね」
「そうですね」
「鎌倉の長谷寺の菩薩像は、奈良の長谷寺本尊と同木異体の十一面観世音菩薩像であるとされているそうです」
今から鎌倉の長谷寺に向かっているのか。
長谷寺の説明が続く。
「開基となる道明上人が、奈良の初瀬の山中に楠の巨木に出会い、その巨木で二体の観音像を刻み、一体は奈良に安置して、もう一体を祈祷のうえ、海に流すと15年後に三浦半島に流れ着き、そちらを安置したのが鎌倉の長谷寺の始めりだそうです」
「ふーん。で?」
「奈良の長谷寺に行った際に見た本像の片割れに興味はありませんか?」
「興味はあります。いつか行こうとは思っていました」
「だと思うました」
嬉しそうだな、おい。
「そうではなくて。なんで、私が、あなたと、鎌倉に向かってるかのって事です」
「そっちですか?」
いや、絶対にわかっていただろ。
「奈良で長谷寺の十一面観世音菩薩像を一緒に観たのですから、鎌倉の十一面観世音菩薩像も一緒に観たいじゃないですか」
「いや。一人で行きなよ。私も一人で行くから」
「そんな寂しい事言わないでください」
思ってもいない顔で、それを言うな!
笑ってるじゃないか!
「正直大河さんと人混みを歩きたくないです」
「えっ」
悲しそうな顔をするな!
「あなた、目立つんですよ。一緒に並んで歩きたくない」
これだけ力強く言えばわかってくれるだろう
「大丈夫です。ちゃんと対策を考えてきました」
期待した私がバカだった。