月とスッポン  奈良へ行く
身の無い会話を繰り返していれば、1時間のドライブは終了する。

長谷寺近くのコインパーキングに車を停め、降り立つ。

整えてあった髪を手でぐしゃとして、グローブボックスから、黒縁メガネを取り出す。

「これでどうですか?」

自慢げに言うが、イケメンがセンスのないイケメンになっただけで変わりない。

本来変装が必要な職種でなければ、しなければ出歩けない状況でもない。

それを「目立ちたくない」と言う私の気持ちを考えて行動してくれた。
その心意気に免じて、今回は許してあげよう、今回は。

「せっかくここまで来たには、大仏さんにも会わないとですね」

大仏がある高徳院を向けて出発する。

「そう言うと思ってました」

嬉しそうに笑う大河の笑顔が眩しい。
これだから、イケメンは嫌いだ。

人とすれ違うのがやっとの歩道を北上して行く。

所々開いているお店を覗きながら、「帰りに寄りましょう」など話しながら進む。

さりげなく私を店舗寄りに行かせ、自分は車道側を歩くのはさすがだと感心する。

人が来るとそっと私の肩を抱き、私が、相手が通りやすい様に道を譲る。

これが普通なのか?

いつも海と歩く時とは逆に立ち位置になんだか落ち着かない。

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