本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。


 勝手なイメージだけど、私の中で赤はデキる女の象徴みたいな色だった。
 強くて美しくて気高い、そんなイメージ。

 私みたいな地味な女でも似合うのかな。


「お似合いだと思いますよ。試してみませんか?」
「は、はい」


 少し緊張しながらカウンターに案内され、スタッフさんは筆で赤いマットリップを取り、丁寧に引いてくれた。


「いかがでしょうか?」
「あ……っ」


 鏡に映る自分の顔に驚いた。
 口紅を変えただけなのに、全然違う。

 赤は派手すぎて自分には合わないのではないかと思っていたけれど、マットな色味はそこまで派手に見えない。
 むしろ程よく華やかさを演出してくれている。


「か、かわいいです」
「ええ、とてもよくお似合いです。明るい印象になりますし、派手なお色味ではないので普段使いにもよろしいかと存じます」
「オフィスで付けても変じゃないでしょうか?」
「もちろんです」


 これならオカンっぽいとは思われないかな?
 大人の女性らしいと思ってもらえるかな。

 真潮は私のこと、褒めてくれるかな――?


「こ、この口紅買います」
「ありがとうございます」


 人生で初めてデパコスを購入してしまった。
 心が何だかふわふわしていて、地に足が着いている感覚がない。

 早く真潮に見せたいな。
 思わずスキップしてしまいそうな程軽やかな足取りで帰宅した。


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