本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。


「ただいま」


 どうやら私の方が早かったようで、真潮はまだ帰宅していなかった。
 真潮は人材派遣会社に勤めている。

 とりあえず夕飯の支度を整えつつ、合間の時間でお風呂を沸かす。化粧を落とさないから先に入れないけど、真潮が先にお風呂がいいと言われても良いように準備した。
 遅いなぁ、早く見せたいのになぁと思いつつ、買ったばかりの口紅を引き直す。

 自宅なのに変だと思うけど、それくらい私は浮かれていたのだ。早く真潮に見て欲しくて。

 だけど、真潮が帰宅したのは十一時過ぎだった。


「ただいま」
「お帰り、遅かったね。先にご飯食べちゃったよ」
「ああ、軽く飲みに行こうってなって食べてきた」
「え?だったらどうして言ってくれないの?真潮の分も用意して待ってたのに」
「仕方ないだろ。部長が急に来てみんなで飲みに行こうって言ってきたんだから」


 だとしても、一言くらいメッセージ入れてくれても良いんじゃないの?
 せっかく真潮の好きなハンバーグにしたのに。

 モヤモヤする気持ちは確実にあるのに、それを言葉にすることはできない。


「明日食べるよ。今日は風呂入って寝るわ。つーか李愛、沸かしてあるのに入らなかったのか?」
「……ねぇ、この口紅どうかな?」
「は?」
「今日ね、デパートで買ってみたんだけど」


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