本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。


 やっぱり、浮気していた。
 真潮はあの女と浮気していたんだ。

 Sというのは彼女のこと?
 昨日も本当は飲み会なんかじゃなかったんだ。


「……っ、どうして……っ」


 信じたかった。真潮は浮気なんかしていない。
 私には怒ってばかりいるけど、私のこと好きでいてくれてるって信じたかった。


「うっ、う〜〜っ……」


 私はその場に崩れ落ち、子どもみたく泣きじゃくってしまった。人目なんて気にしている余裕なんてなかった。
 たった数十分前まで楽しい飲み会だったはずなのに。

 一瞬にして地獄に叩き落とされてしまうなんて――。


「うっ、うわ〜〜」
「おねーさん、どうしたのー?」


 号泣している私に誰かが話しかけてきた。
 顔を上げる気力すらない私は、その人の顔を見られない。だけど声から男性であることはわかった。


「そんなところでしゃがみ込んでると危ないよー」
「……っ」
「慰めてあげよっか?大丈夫、優しくするからさ――」
「触るな」


 聞いたことがある声なのに、聞いたことがない雄々しく、そして怒りを孕んだ声に驚いた。
 思わず涙が少しだけ止まってしまった程だ。


「失せろ」
「ヒイッ」


 結局顔を見ることのなかった男性は、怯えた悲鳴を上げて逃げ去って行くのがわかった。
 私の視界には足元だけしか映らなかった。

 代わりに私の視界に飛び込んできたのは、ハンカチを差し出しながら心配そうに見つめる鷹宮くんだった。


「大丈夫ですか?糸金さん……」
「た、たかみやく……っ」


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