本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。
再び視界が歪んでいくことを感じながら、私はポーチからあのリップを取り出した。
こんなもの買っても無意味だった。
「私がもう少し綺麗になったら、昔みたいに戻れるかもなんて思ってたなんて、馬鹿みたい。奮発してデパコスなんて買って、ほんと馬鹿だよね……」
「そんなことない」
鷹宮くんは真顔でリップを握りしめる私の手を優しく掴む。
私からリップを取り、キャップを外した。
「すごく綺麗な赤ですね。糸金さんに似合うと思います。こんなものなくても、糸金さんはそのままで綺麗だけど」
「お世辞なんてやめてよ」
「お世辞じゃないです。塗ってみても良いですか?」
「えっ!?」
塗るってどういうこと?と聞き返す前に鷹宮くんはリップを私の唇に当てる。
思わず全身が硬直した。されるがままになってぎゅっと唇を真一文字に結ぶ。
顔が近くて落ち着かない。視線のやり場がなくて、瞼も閉じた。
社内のアイドル的存在の後輩に口紅塗ってもらうなんて、一体どんな状況なのだろう。
「はい、できました。やっぱりすごく綺麗ですよ」
「……っ」
「変ですね、こんなに綺麗なのがわからないなんて」
「うう……っ」
せっかく鷹宮くんが綺麗に塗ってくれたであろうに、また涙が溢れてしまう。
優しいな、鷹宮くん。
ずっと私を気遣ってくれる心遣いが嬉しい。