本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。


「……嗣実くんって、意外と甘えんぼだよね」
「李愛さんにだけね」


 李愛さんの唇に引かれたマットな赤の口紅は、熟れた林檎が奪って欲しいと誘っているようだった。

 この口紅は元々元カレを振り向かせるために買ったものらしく、李愛さんは捨てようとしていたが俺が止めた。
 これからは李愛さん自身のために、李愛さんがもっと綺麗になるために使えば良い。せっかく似合っているのだから、と。
 そう言ったら瞳を潤ませて嬉しそうに微笑んでくれた。

 それ以来会社でも使うようになったけど、俺はちょっとだけ後悔している。


「……俺だけが李愛さんの魅力を知ってたのに」
「? 何が?」
「李愛さんを誰にも取られたくないって意味だよ」


 もちろん誰にも奪わせないけど。
 ただ今までは李愛さんのことを地味だの何だの言ってた奴らが、急に綺麗になったとか目の色変えるのは腹が立つ。

 元から李愛さんは綺麗だしかわいいんだよ。


「ねぇ、キスしていい?」
「なっ……んっ」


 ダメと言われる前に唇を塞いだ。
 オフィスでこんなことはダメだってわかってる。でもTMの担当になってからお互いバタバタしまくってたし、少しだけでいいからご褒美が欲しい。


「〜っ、もう!」


 上目遣いで睨まれても、逆効果なんだけどな。
 本当にかわいくて仕方ない。

 ずっと焦がれていた、ずっと欲しくてたまらなかった。
 やっと手に入れたのだから、もう二度と離さない。


「好きだよ、李愛さん」


 覚悟していて、俺の本気はこんなものじゃない。
 近い将来、左手の薬指に指輪を嵌めてもらうから。

 今もこれからもずっと、李愛さんだけを愛し尽くすよ。



 fin.


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