本気を出したクールな後輩は一途な盲愛で攻め落とす。
その日はいつもより早めに退勤できたので、会社帰りにデパートに寄った。
化粧品売り場をチラ見しながらウロウロ練り歩く。
恥ずかしながら、二十八にもなってデパートで化粧品を買うのは初めてだ。何を選べば良いのかわからない。
「何かお探しでしょうか」
優しそうな女性スタッフが声をかけてくれた。
艶やかな黒髪を後れ毛一本なくきっちりまとめ上げ、派手すぎず地味すぎないエレガントなメイクは彼女の美しさを際立たせている。
美人スタッフを目の前にした上、特にノープランで来てしまった私はしどろもどろになってしまう。
「えっと、特にこれというのは決めてないんですが、ちょっと気分を変えたくて」
「素敵ですね。では口紅なんていかがでしょう?口紅一つ変えるだけでグッと印象が変わりますよ」
言われてズラリと並ぶ口紅に視線をやった。
赤、ピンク、オレンジなどなど様々な色合いを見ているだけで心が踊る。
「普段はどのようなお色味を使われていますか?」
「サーモンピンクっていうんですかね。肌馴染みが良くて」
「確かに今の口紅もよくお似合いですね。でしたら、こちらのマットな赤もお似合いになると思いますよ」
「赤、ですか」
「あまりお好きではありませんか?」
「いえ、好きなんですけど、私には似合わない色かなって……」