不器用な生徒会長に初めての恋をした
*
負けたくはないものの、やはり勝てない気がして今更落ち込む。やはり協力するなんて言わなければよかった。
「はぁ……もうどうしよ」
「は?」
生徒会室に入るとイライラしている返事が聞こえて、私はぱっと振り向く。合川先輩に独り言を聞かれてしまった……。
「何だ、ため息なんかついて。俺達の邪魔になるからやめてくれないか」
「朱里ちゃん、いらっしゃいー!」
菜穂先輩がもう座って作業していた。私のほうが先に生徒会に入ったのに何で『いらっしゃい』なんて言えるの――?
そんな醜いことを思っている自分が嫌になる。
「……すみません」
「えー、私は全然いいよー? それよりさっ、朱里ちゃん早く座って!」
そう言われて菜穂先輩の隣に座る。菜穂先輩の向こう側には合川先輩がいた。先輩たち、隣同士なんだ――。
先程よりも胸がぎゅーっと締め付けられる。
「何で菜穂はそんなに甘いんだ」
「えっ、だって偉いじゃん、二年なのに一生懸命でさー! もう、健は厳しすぎるんだよ」
合川先輩はふっ、と静かに笑っていた。
嫌だ、なにこれ。合川先輩って、こんなふうに笑うんだ……。
「……っ」
胸がズキズキと痛む。菜穂先輩と合川先輩のやり取りを見ていると自分が惨めでかわいそうと思ってしまう。
私ってこんな最低な人間なんだ……。
「ねぇねぇ健、ここどうやってレイアウトすれば――」
「おいあんた、大丈夫か?」
菜穂先輩が合川先輩に質問しているのにも関わらず、具合が悪そうな私に声を掛けてくれた。
やっぱり先輩は優しい人だ。口は悪いし無愛想だけど、人のことをしっかり見ている。
「ありがとう、ございます。大丈夫です」
「でも顔色が悪いぞ。俺言ったよな、体調悪いときは言えって」
「え、で、でも、邪魔したくなくて」
そう言うと、合川先輩は「はぁ」と深いため息をついていた。
「馬鹿か、あんたは。だから俺が心配するんだよ。今日は生徒会の仕事はやらなくていい。家でやってこい」
「……はい。ありがとうございます」
今度は胸がぎゅーっと締め付けられ、鼓動が頭の中までバクバク鳴っている。
これは嬉しいからだ。好きな人に助けてもらえて幸せだから――。
「俺も帰るから。じゃあ今日のとこは解散だ。菜穂、米村に付き添ってやってくれ」
「はーい、分かった! じゃあ健、また明日ねっ! 朱里ちゃん、帰ろ」
菜穂先輩の思うがままに手を引っ張られ、強引に一緒に帰ることになった。
菜穂先輩、合川先輩に頼まれたから私と帰ってくれるのは分かっているけれど、やっぱり優しい人なんだなぁ。
「あ、あの、菜穂先輩、ありがとう」
「んーん、いいよぉ、それより朱里ちゃん大丈夫?」
「は、はい。合川先輩のおかげで良くなったから」
「……そう」
菜穂先輩の答えがいつもより冷たいのは気の所為であってほしいな、と思う。
「じゃあもう家近いので。先輩、送ってくれてありがとう」
「もちろんだよー、お大事にね!」
ひらひらと手を振ってくれる菜穂先輩がとても可愛らしかった。やはり強敵なライバルだな、と改めて気づく。
でも負けない。合川先輩のことが、大好きだから――!
*
次の日学校へ行くと、何だか私のほうを見てヒソヒソ話している人たちが大勢いた。何だろう、と不思議に思う。
道行く人の視線がとても痛い。
「うわ、噂の副会長来たよ」
「えぇ、あの人? 平凡なフリして怖いんだね」
と、同じ学年の女子生徒が言っているのが聞こえた。私は何が何だかさっぱり分からず、その場に立ち尽くしていた。
「朱里っ!!」
「あ、ゆめ、おはよ。あのさ、この騒ぎって一体――」
「朱里、元ヤンだったってほんと?」
そんなことを言われ、私は何度もぱちぱちと瞬きをした。
「えっ? なにそれ、そんな冗談やめてよ」
笑って言うと、ゆめは顔色を真っ青で真剣な目をしている。思わず後退りしてしまった。
どういうこと? 私が元ヤンだなんて噂が流れてるの?
「ゆめ! 違うよ、私元ヤンなんかじゃ……!」
「……うん、分かってる。朱里はそんな子じゃないって。でもさ、これはなんなの?」
ゆめはそう言って、一枚の写真を差し出してきた。
そこには子猫に餌やりをしている合川先輩と話している私の姿が写っていた――。
この前の写真だ。どうして私達の姿が撮られているの……?
「元ヤンだったっていう合川先輩と嬉しそうに喋ってるよね、朱里」
「だ、だってゆめには言ったでしょ、好きだって……!」
そう、私は合川先輩が好き。合川先輩が本当は優しいと分かった瞬間だ。
このとき、二人しかいなかった。私達の周りには誰もいなかったはずなのに。どうして、写真が撮られているのだろうか。
「……何の、騒ぎだ」
いつもの聞き慣れている声が聞こえて振り向くと、合川先輩が不思議そうに見つめていた。
「合川先輩って生徒会長なのに元ヤンだったんですか!?」
「元ヤンだなんて信じられない……!」
「じゃあ、副生徒会長を米村さんにやらせたのもグルだからですか!?」
周囲の生徒が合川先輩に質問攻めをする。
合川先輩、すごく困ってる……。ああどうして、どうしてこんな写真があるの――?
「健、おはよーっ! あれ、何でこんなに人が集まってるの?」
菜穂先輩が笑顔を浮かべ、合川先輩のもとへ駆け寄ってきた。
胸が曇ったようにモヤッ、とする。今は嫉妬している場合ではないのに。
「これ、健と朱里ちゃん?」
菜穂先輩のくりくりとした大きい目がてんてんになっている。
まずい、菜穂先輩も合川先輩のことが好きなのに、私と二人きりの写真を見られちゃった……!
「えーみんなこんなの気にしてるの? 健も朱里ちゃんも優しいじゃん! ね、だからこの騒ぎはおしまい!」
菜穂先輩がそう言うと、騒いでいた生徒たちは「鈴沢先輩がそう言うなら……」と、沈黙が続いた。
私はほっ、と一息ついた。ひとまず騒ぎはなくなったようだ。
「……助かった、菜穂」
「んーん、二人が困ってたんだもの! あ、朱里ちゃんちょっと来てー」
にこにことしている菜穂先輩の顔が、いつもと違って見えた。
負けたくはないものの、やはり勝てない気がして今更落ち込む。やはり協力するなんて言わなければよかった。
「はぁ……もうどうしよ」
「は?」
生徒会室に入るとイライラしている返事が聞こえて、私はぱっと振り向く。合川先輩に独り言を聞かれてしまった……。
「何だ、ため息なんかついて。俺達の邪魔になるからやめてくれないか」
「朱里ちゃん、いらっしゃいー!」
菜穂先輩がもう座って作業していた。私のほうが先に生徒会に入ったのに何で『いらっしゃい』なんて言えるの――?
そんな醜いことを思っている自分が嫌になる。
「……すみません」
「えー、私は全然いいよー? それよりさっ、朱里ちゃん早く座って!」
そう言われて菜穂先輩の隣に座る。菜穂先輩の向こう側には合川先輩がいた。先輩たち、隣同士なんだ――。
先程よりも胸がぎゅーっと締め付けられる。
「何で菜穂はそんなに甘いんだ」
「えっ、だって偉いじゃん、二年なのに一生懸命でさー! もう、健は厳しすぎるんだよ」
合川先輩はふっ、と静かに笑っていた。
嫌だ、なにこれ。合川先輩って、こんなふうに笑うんだ……。
「……っ」
胸がズキズキと痛む。菜穂先輩と合川先輩のやり取りを見ていると自分が惨めでかわいそうと思ってしまう。
私ってこんな最低な人間なんだ……。
「ねぇねぇ健、ここどうやってレイアウトすれば――」
「おいあんた、大丈夫か?」
菜穂先輩が合川先輩に質問しているのにも関わらず、具合が悪そうな私に声を掛けてくれた。
やっぱり先輩は優しい人だ。口は悪いし無愛想だけど、人のことをしっかり見ている。
「ありがとう、ございます。大丈夫です」
「でも顔色が悪いぞ。俺言ったよな、体調悪いときは言えって」
「え、で、でも、邪魔したくなくて」
そう言うと、合川先輩は「はぁ」と深いため息をついていた。
「馬鹿か、あんたは。だから俺が心配するんだよ。今日は生徒会の仕事はやらなくていい。家でやってこい」
「……はい。ありがとうございます」
今度は胸がぎゅーっと締め付けられ、鼓動が頭の中までバクバク鳴っている。
これは嬉しいからだ。好きな人に助けてもらえて幸せだから――。
「俺も帰るから。じゃあ今日のとこは解散だ。菜穂、米村に付き添ってやってくれ」
「はーい、分かった! じゃあ健、また明日ねっ! 朱里ちゃん、帰ろ」
菜穂先輩の思うがままに手を引っ張られ、強引に一緒に帰ることになった。
菜穂先輩、合川先輩に頼まれたから私と帰ってくれるのは分かっているけれど、やっぱり優しい人なんだなぁ。
「あ、あの、菜穂先輩、ありがとう」
「んーん、いいよぉ、それより朱里ちゃん大丈夫?」
「は、はい。合川先輩のおかげで良くなったから」
「……そう」
菜穂先輩の答えがいつもより冷たいのは気の所為であってほしいな、と思う。
「じゃあもう家近いので。先輩、送ってくれてありがとう」
「もちろんだよー、お大事にね!」
ひらひらと手を振ってくれる菜穂先輩がとても可愛らしかった。やはり強敵なライバルだな、と改めて気づく。
でも負けない。合川先輩のことが、大好きだから――!
*
次の日学校へ行くと、何だか私のほうを見てヒソヒソ話している人たちが大勢いた。何だろう、と不思議に思う。
道行く人の視線がとても痛い。
「うわ、噂の副会長来たよ」
「えぇ、あの人? 平凡なフリして怖いんだね」
と、同じ学年の女子生徒が言っているのが聞こえた。私は何が何だかさっぱり分からず、その場に立ち尽くしていた。
「朱里っ!!」
「あ、ゆめ、おはよ。あのさ、この騒ぎって一体――」
「朱里、元ヤンだったってほんと?」
そんなことを言われ、私は何度もぱちぱちと瞬きをした。
「えっ? なにそれ、そんな冗談やめてよ」
笑って言うと、ゆめは顔色を真っ青で真剣な目をしている。思わず後退りしてしまった。
どういうこと? 私が元ヤンだなんて噂が流れてるの?
「ゆめ! 違うよ、私元ヤンなんかじゃ……!」
「……うん、分かってる。朱里はそんな子じゃないって。でもさ、これはなんなの?」
ゆめはそう言って、一枚の写真を差し出してきた。
そこには子猫に餌やりをしている合川先輩と話している私の姿が写っていた――。
この前の写真だ。どうして私達の姿が撮られているの……?
「元ヤンだったっていう合川先輩と嬉しそうに喋ってるよね、朱里」
「だ、だってゆめには言ったでしょ、好きだって……!」
そう、私は合川先輩が好き。合川先輩が本当は優しいと分かった瞬間だ。
このとき、二人しかいなかった。私達の周りには誰もいなかったはずなのに。どうして、写真が撮られているのだろうか。
「……何の、騒ぎだ」
いつもの聞き慣れている声が聞こえて振り向くと、合川先輩が不思議そうに見つめていた。
「合川先輩って生徒会長なのに元ヤンだったんですか!?」
「元ヤンだなんて信じられない……!」
「じゃあ、副生徒会長を米村さんにやらせたのもグルだからですか!?」
周囲の生徒が合川先輩に質問攻めをする。
合川先輩、すごく困ってる……。ああどうして、どうしてこんな写真があるの――?
「健、おはよーっ! あれ、何でこんなに人が集まってるの?」
菜穂先輩が笑顔を浮かべ、合川先輩のもとへ駆け寄ってきた。
胸が曇ったようにモヤッ、とする。今は嫉妬している場合ではないのに。
「これ、健と朱里ちゃん?」
菜穂先輩のくりくりとした大きい目がてんてんになっている。
まずい、菜穂先輩も合川先輩のことが好きなのに、私と二人きりの写真を見られちゃった……!
「えーみんなこんなの気にしてるの? 健も朱里ちゃんも優しいじゃん! ね、だからこの騒ぎはおしまい!」
菜穂先輩がそう言うと、騒いでいた生徒たちは「鈴沢先輩がそう言うなら……」と、沈黙が続いた。
私はほっ、と一息ついた。ひとまず騒ぎはなくなったようだ。
「……助かった、菜穂」
「んーん、二人が困ってたんだもの! あ、朱里ちゃんちょっと来てー」
にこにことしている菜穂先輩の顔が、いつもと違って見えた。