魔術師団長に、娶られました。
誤解と思い込み
完食。
ボリュームのあるパンケーキを、特に困惑する様子もなく食べ終えたアーロンを前に、シェーラはひそかに舌を巻いていた。
(「私の行きつけの店で、私と同じ物を注文しても食べきれないかもしれませんよ」と注文するときに警告くらいはできたのに、言いそびれてしまって……)
意地悪をするつもりはなかったが、親切ではなかったと思う。
言えなかった一番大きな理由は、これまでアーロンとはほぼ会話らしい会話をしたことがなかったということ。
気を使わない相手なら「多いですよ」くらい言えるのだが、そもそもシェーラはアーロンの標準食事量がどの程度かわからないこともあり、まごついているうちに忠告の機会を逃したのだ。
かくなる上は、どんな状況になっても自分が責任を持って食べよう……! と決意していたのに、杞憂に終わった。
思った以上に話が弾んで、気づいたときには二人とも皿は空となっており、追加の茶を頼んでいた。
アーロンは、食べ過ぎで苦しんでいるということもなく、至って平然とした態度である。シェーラはその端正な顔を見つめ、思い切って尋ねた。
「アーロン様、いまさらなんですけど、パンケーキ多くなかったんですか?」
ちらっと視線をくれたアーロンは、目を細めてふわっとはにかむように微笑んだ。
「若干、多かったですね。確認すれば良かったんですけど、俺が舞い上がっていたせいです。ろくにメニューを見なくて。食べ切れて良かった」
ごく自然な口ぶりで返されて、シェーラは「多かった、ですよね!」と前のめりになった。
「言えば良かったんですけど、アーロン様がどのくらいお召し上がりになるか想像もつかなくて……。試そうとしたわけじゃないんですが」
「いえいえ、全然気にしないでください。すごく美味しかったです。普段は入らないお店なので、勉強になりました。こういうの、楽しいですね」
そこまで言われてしまえば、「でも」などと食い下がることはできない。
ただひたすらに(出来たひとだな……!!)と感心してしまっていた。
(騎士団の手柄まで強奪しまくりの横暴な天才とか、女性を泣かせてばかりいるいけすかない男だとか、本当に今まで良くない評判ばかりで、私も敢えてこの方には近づかなかったけど……)
仕事で必要があれば、話すのはやぶさかではないと思っていた。
しかし、彼の場合は「女泣かせ」の件がある。
恋愛の意味では異性との接触がまったく無いシェーラの場合、うかつに近づくのはやはり怖かったのだ。
一切、彼の虜にならなければ恐れるに足らずだが、もし好きになってしまえば相当深い傷を負うものと、危ぶむ気持ちもうっすらとあった。
だから、というのは逃げが過ぎるにせよ、周りが「近づくな」と言うのに甘んじて、彼を避けてきたところはあるのだが……。
全然嫌なところがない上に、話しやすく気遣いもしてくれる。
これならば女性に人気があるのもわかる、と噛み締めながらシェーラはしみじみと言った。
ボリュームのあるパンケーキを、特に困惑する様子もなく食べ終えたアーロンを前に、シェーラはひそかに舌を巻いていた。
(「私の行きつけの店で、私と同じ物を注文しても食べきれないかもしれませんよ」と注文するときに警告くらいはできたのに、言いそびれてしまって……)
意地悪をするつもりはなかったが、親切ではなかったと思う。
言えなかった一番大きな理由は、これまでアーロンとはほぼ会話らしい会話をしたことがなかったということ。
気を使わない相手なら「多いですよ」くらい言えるのだが、そもそもシェーラはアーロンの標準食事量がどの程度かわからないこともあり、まごついているうちに忠告の機会を逃したのだ。
かくなる上は、どんな状況になっても自分が責任を持って食べよう……! と決意していたのに、杞憂に終わった。
思った以上に話が弾んで、気づいたときには二人とも皿は空となっており、追加の茶を頼んでいた。
アーロンは、食べ過ぎで苦しんでいるということもなく、至って平然とした態度である。シェーラはその端正な顔を見つめ、思い切って尋ねた。
「アーロン様、いまさらなんですけど、パンケーキ多くなかったんですか?」
ちらっと視線をくれたアーロンは、目を細めてふわっとはにかむように微笑んだ。
「若干、多かったですね。確認すれば良かったんですけど、俺が舞い上がっていたせいです。ろくにメニューを見なくて。食べ切れて良かった」
ごく自然な口ぶりで返されて、シェーラは「多かった、ですよね!」と前のめりになった。
「言えば良かったんですけど、アーロン様がどのくらいお召し上がりになるか想像もつかなくて……。試そうとしたわけじゃないんですが」
「いえいえ、全然気にしないでください。すごく美味しかったです。普段は入らないお店なので、勉強になりました。こういうの、楽しいですね」
そこまで言われてしまえば、「でも」などと食い下がることはできない。
ただひたすらに(出来たひとだな……!!)と感心してしまっていた。
(騎士団の手柄まで強奪しまくりの横暴な天才とか、女性を泣かせてばかりいるいけすかない男だとか、本当に今まで良くない評判ばかりで、私も敢えてこの方には近づかなかったけど……)
仕事で必要があれば、話すのはやぶさかではないと思っていた。
しかし、彼の場合は「女泣かせ」の件がある。
恋愛の意味では異性との接触がまったく無いシェーラの場合、うかつに近づくのはやはり怖かったのだ。
一切、彼の虜にならなければ恐れるに足らずだが、もし好きになってしまえば相当深い傷を負うものと、危ぶむ気持ちもうっすらとあった。
だから、というのは逃げが過ぎるにせよ、周りが「近づくな」と言うのに甘んじて、彼を避けてきたところはあるのだが……。
全然嫌なところがない上に、話しやすく気遣いもしてくれる。
これならば女性に人気があるのもわかる、と噛み締めながらシェーラはしみじみと言った。