魔術師団長に、娶られました。
「お届け物です。ドアを開けて頂いてよろしいでしょうか」

 届け物。
 普段なら、「誰から、何が届いていますか?」と尋ねる。
 しかしこのときは、直前にエリクからアーロンの手紙を受け取っていたこともあり、意識に隙が生じていた。
 もしやその送り主もアーロンでは、と心がざわつき判断が鈍った。
 さらにいえば、アーロンの名前はいまだ騎士団内では仇敵も同然。
 副団長であるシェーラが、私用でアーロンから物を受け取っている、と部下に知られるのも抵抗がある。
 結果的に、ろくに確認もせずにドアを開けてしまった。

 シェーラは、戦闘職として、常日頃から肉体を鍛えている。
 それでも、騎士団の男性たちの間に立てばどうしても、見た目は細く頼りない。身長や体の厚みが、足りていないのだ。
 このときも、ドアを開けた先にいた相手を、見上げる形になる。
 体格に恵まれたマドックは、肩幅も胸板も分厚く、ゆうにシェーラの倍はあった。

「わざわざ、ありがとう」

 あまり送り主や物に言及しないよう、シェーラは言葉少なに礼を述べ、手を差し出す。
 その手首をぐいっとマドックに掴まれた。

(荷物は?)

 そんなことをしたら、落としてしまう、と間の抜けた考えが脳裏をかすめる。
 それが反応の遅れとなり、シェーラは容赦なく両手首を押さえ込まれ、ガタン、という派手な音とともに床に押し倒されていた。
 不覚。
 悟ったときには重量のあるマドックが腰に乗り上げていて、口には強引に布を押し込まれてしまった。叫んで助けを呼ぶこともできない。
 この一連の出来事が何を意味しているのか、シェーラとて嫌というほど思い当たる。

 引きつったような表情のマドックは、シェーラを見下ろして言った。

「どうしてよりにもよって、相手があの男なんだ。騎士姫さまのことは、ずっとみんなで大切に見守っていたのに。俺らの中の誰かじゃなくて、魔術師団の男だなんて。そんなの、騎士団に対する裏切りだ」
「……ンンっ」

 布のせいで声が出ない。
 シェーラはきついまなざしでマドックを睨みつけたが、暗い笑みを誘っただけだった。

「どうせあの男に汚されるなら、いま俺が思いを遂げさせてもらう。そのくらいいいだろう、入団以来ずっとあんた一筋だったんだ」

 何が、「そのくらい」で「いい」のかと。
 誰がそんな許可を出すのかと。
 シェーラは隙をついて抜け出そうとマドックを窺うが、いかに格下の部下とはいえ、この体勢では技量の差ではなく単純な体格差が物を言う。
 しかも、仲間であるだけに、シェーラの手の内は知り尽くされており、反撃は十分に警戒されているはず。

(どう、しよう。ここは普段ひとが近寄らない。物音を立てても気づかれるかどうか。どうしてこんなことに……!)

 自分の迂闊さを呪うシェーラに対して、マドックは達成感を覚えているような笑みを向けた。
 そのまま上体を倒し、シェーラのほっそりとした首筋に顔を埋めた。

 
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