魔術師団長に、娶られました。
(うわぁ……。本当に、するんだ)

 ふわっとした柔らかい感触に、身震いする。
 ちゅ、ちゅ、と耳をくすぐるような音が響き、頬に血がのぼってくる。
 実は緊張してがちがちに固まっていたシェーラであったが、アーロンの腕にしっかりと支えられて抱きしめられ、口づけを受けているうちに徐々に体から力が抜けてきた。
 自分も抱きしめ返した方が良いのだろうか? と気付き、そうっと腕を背にまわしてみる。
 その瞬間、アーロンの手でがしっと後頭部を鷲掴みにされて、唇を強く押し付けられた。

「んっ!?」

 厚い舌に唇をこじ開けられ、口腔内を蹂躙される。頬の内側や歯列を舐められ、舌を絡められてぴちゃぴちゃと卑猥な水音が響き、シェーラはあまりの恥ずかしさにもがいてその腕から逃げ出そうとした。だが、力が強くて抵抗はまったく意味をなさなかった。

「んっ、んっ」

 喘ぎながら、アーロンの胸板に拳をぽすぽすと叩き込む。アーロンは、シェーラの濡れた唇を舐めてから、ようやく顔を離した。

「苦しかったですか?」

 間近で見るには爽やかすぎる笑みを向けられて、シェーラは何を言おうとしていたのか忘れて見入ってしまった。
 少し乱れた髪、熱っぽい瞳に、濡れてつやつやとした唇の凶悪な色っぽさ。

「く、苦しいといいますか……いまの、キスですか?」
「どういう質問かよくわからないんですが、キスですよ? 恋人や婚約者としかしないような、すごく親密でいやらしいキスです」

 にこにこと笑顔で肯定されて、シェーラは「あ……う……」と意味をなさない言葉をもらして、固まった。

(顔が熱い……! 火を噴いてそう……!)

 あまりにもアーロンが素なので、意識しまくっている自分がいやらしいのかな? とシェーラはいたたまれない気持ちになってくる。「今日は、もう」と蚊の鳴くような声で、なんとか告げた。

「そうですね。これ以上一緒にいると、自分をおさえる自信がありません。今日はこのへんで」

 アーロンは再びシェーラを優しく抱き直すと、耳に唇を寄せて「君は可愛すぎますね」と囁いてから唇を押し付けて、身を離した。
 名残惜しそうに微笑んで「それでは」と言いながら、ドアから出て行く。
 ひとまずそれを見送ってから、シェーラはドアに鍵をかけて、そのままその場にしゃがみこんだ。

 唇と耳に残る感触。甘い囁き。アーロンの、少し興奮したような吐息が肌をかすめたのがまざまざと思い出されて、手で顔を覆った。

(キスだけでこんなに?)

 これ以上、仲が深まるのが待ち遠しいのと怖いのが半々で、頭を抱えてしまった。
< 33 / 57 >

この作品をシェア

pagetop