魔術師団長に、娶られました。

息苦しさはいつか

「シェーラさん、こんにちは。今から食事ですか?」

 食堂の入り口でばったりと顔を合わせたアーロンが、親しげに声をかけてきた。
 寮での事件からは、すでに数日が経過している。その間、直接話す機会はなかった。
 姿を視界に見て、どう挨拶をしようとシェーラがまごついているうちに、さっさと先手を打たれた形であった。

(「いつでも呼んでくださいね!」って手紙は頂いていたけど、用も無いのに呼べないから「問題ありません」って返してそれ以来没交渉に……)

 シェーラはぎこちなく微笑みながら答えた。

「今日は予定が詰まっていたので、空いている時間に済ませてしまおうと、さっと出てきたとことです」
「それで一人なんですね。普段は取り巻きがいるのに」

 含むところもなさそうにさらっと言われた言葉が、少しひっかかる。

(それを仰るならアーロン団長こそ、取り巻きたくさんいますよね……?)

 アーロンは魔術師団の面々と食事に来たようだが、その背後には、シェーラをきつい目で睨みつけている女性魔術師がいた。
 通りすがりの文官や侍女たちの視線も集めてしまっている。

 理由としては、アーロンがこれまでとは違い、フードをかぶらず眼鏡だけでほとんど素の顔を晒しているのが大きいようにシェーラは思う。
 騎士団の副団長シェーラとデートをして「恋仲である」との話題が出始めた日から、アーロンはその秀麗な顔を隠さぬようになった。
 一方で、シェーラの周りも少し変化をしていた。
 これまで何かとシェーラの周囲をガードしていた騎士団の面々が、すうっと身を引いたのである。

 彼らが何を警戒していたかというと、顔を合わせては険悪な空気になる魔術師団であり、もっと言えばおそらく団長アーロンそのひとだったに違いない。
 そのため、近づく余地などなかったのだ。
 今になって、こうしてふらりと一人で行動しているところを見れば、アーロンとしては「いいの?」とは言いたくなるのだろう。嫌味ではなく、単純な疑問として。
 ここは自分から歩み寄ろう、とシェーラは意を決して声をかけた。

「せっかくですので、食事をご一緒しませんか」
「良いですね。俺も同じことを考えていました」

 ざわっと空気が揺れた。

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