魔術師団長に、娶られました。
 明らかにドキドキしている。それを、アーロンは微笑ましい気持ちで眺めた。手は出しちゃだめだよな、いやグレーなくらいなら良いかなの間で悩む。楽しい。
 一方のシェーラは顔を赤くして、何やらいろいろ考えている様子。
 見ているだけで楽しいアーロンは、あえて手を出さないことに決めた。
 アーロンがそれ以上動かないことに気づいたらしいシェーラは、顔を真赤にしたまま、アーロンの方へと手を伸ばしてきた。せっかくなので、アーロンはその手を掴む。シェーラが、顔から火を吹いて止まった。自分から動いた割に、それ以上は無理らしい。

 にこにこ笑ったまま、アーロンはシェーラの顔をのぞきこんだ。

「可愛いので、抱きしめて良いですか?」
「だ……めです。まだだめです」
「いつなら良いんですか?」
「結婚したら、ですかね?」
「ああ、じゃあ、そういうのも込みで結婚ということで良いんですね。安心しました」
「!?」

 確認しただけなのに、追い詰められたような表情になったシェーラが面白くて、可愛すぎて、アーロンは笑いながら手を持ち上げて、唇を寄せる。

 思い出の中の、シェーラに騎士になることをすすめた()()
 さてその打ち明け話を、自分はするのか。それとも、一生言わないのかな、と考えながら。

 言わないかもしれないけど、ある日ふと思い出してくれたら。
 いまはまだ自分だけが感じている彼女との運命を、彼女が気づいてくれたら。
 それはそれで、嬉しいかもしれない。
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